弱酸性洗浄剤
目次
「アミノ酸系」や「弱酸性」の洗浄剤
最近、雑誌やテレビのCMなどで、肌や髪には「アミノ酸系」や「弱酸性」がいいという言葉をよく見かけますが、肌や髪の洗浄剤の主役は長く使われてきた高級アルコール系やアルファオレフィン系が敬遠され、アミノ酸系やベタイン系に代表される弱酸性系にシフトされているようです。
アミノ酸系洗浄剤は、人間の皮膚や髪のタンパク質を構成するアミノ酸の構造を持った界面活性剤であるココイルグルタミン酸ナトリウム、ラウロイルメチルアラニンナトリウム、ココイルメチルタウリンナトリウムなどを使用している洗浄剤で、多くの弱酸性シャンプーがこのタイプに当てはまります
ベタイン系洗浄剤は、ヤシ油脂肪酸を使用した成分でコカミドプロピルベタイン、ラウラミドプロピルベタイン、ココアンホ酢酸ナトリウムなどが代表的な洗浄成分で、シャンプーでは単体では使われず、他の洗浄成分と併用されます。
弱酸性の洗浄剤の謳い文句は以下の通り。
アミノ酸系界面活性剤を洗浄成分としたシャンプーは、他の洗浄成分と比べてマイルドな洗い上がりが特徴です。
人間の皮膚や髪のタンパク質を構成するアミノ酸と同じ成分でできていて、しかも肌と同じ弱酸性なので、髪や頭皮にやさしいのが特長です。
わたしたちの肌は、弱酸性。
対する石鹸は、アルカリ性。
肌や頭皮に対して刺激が強すぎるのです。
肌は弱酸性です。その肌と同じ弱酸性のシャンプーは、肌・髪に優しく、低刺激なので頭皮への負担が少ない。
人間の皮膚は通常弱酸性に保たれているので、弱酸性で汚れを取ることができれば、皮膚への刺激を軽減することができますが、弱酸性洗浄剤は汚れが十分に取れない、スタイリング剤やトリートメントなどが髪に残りやすいという問題があります。
弱酸性の洗浄剤について、やたら「マイルド」「優しい」が強調されますが、言い換えれば、汚れが落ちにくいということです。
汚れが落ちにくいと、2度洗いしたり何度も擦ったりする必要があり、頭皮や髪に優しいシャンプーを使っているはずなのにかえって負担になることもあります。
また、弱酸性のシャンプーは、弱い洗浄力を補うために様々な添加物が使われていて、それらが頭皮や髪に刺激を与えてしまう場合もあります。
アトピー性皮膚炎の治療と石けん、低刺激性・弱酸性の洗浄剤について以下のような報告があります。
石けんを使わないと皮膚によごれ(汗、あか、ふけなど)がたまってきます。皮膚のよごれはかゆみを強くしアトピー性皮膚炎を悪化させます。
低刺激性の石けん、弱酸性の石けんは、刺激は少ないのですが、洗浄力が劣ります。 長い間使っていると皮膚によごれが残り全身のかゆみがひどくなります。
アルカリには酸性の汚れを中和させて落とす働きがありますが、皮脂の汚れやスタイリング剤などの汚れの多くは酸性ですから、弱アルカリ性の石けんシャンプーは汚れをしっかり落とします
そして、石けんは弱アルカリ性であるため、酸性の汚れに中和されることにより洗浄力が抑えられ、洗いすぎになりません。
一方、弱酸性洗浄剤は汚れの多くを占める酸性物質に中和されないため、汚れが落ちにくのに洗浄力は持続し、洗いすぎになる可能性があります。
洗浄力が弱いとはいえ、界面(表面)を変質させるのが界面活性剤の性質ですから、洗浄力(界面活性力)が持続すると肌に相当な負担がかかります。
オーガニックシャンプー、ボタニカルシャンプー
有機栽培の植物を使用するオーガニックシャンプーや、植物の成分を配合したボタニカルシャンプーも、洗浄成分にはアミノ酸系の界面活性剤を使うタイプが多く見られます。
オーガニック洗剤は、有機栽培で育てられた植物性の原料を使ってつくられた洗剤ということで、液性はほとんどが弱酸性から中性です。
ボタニカルは、「植物の」という意味で、有機などとは関係ありません。
日本の食品については、農林水産省によるJAS認定がありますが、厚生労働省が管轄する洗剤や化粧品には、「オーガニック」や「ボタニカル」に関する規定や明確な定義はありません。
したがって、商品ラベルに「オーガニック」「ボタニカル」という名前をつけることには何の規制もなく、使ったもの勝ちの異常な世界です。
アミノ酸系も同様で、アミノ酸成分がほんの僅か入っているだけで堂々とアミノ酸系を謳っている商品がたくさんあります。
「自然派の植物由来だから肌に優しい」とは言い切れない
化粧品を頻繁に使用する成人女性は、特に皮膚から物質が体内に入り食物アレルギーになる経皮感作への注意が必要です。
※本コラムの「食品アレルギーは、荒れた皮膚からアレルゲンが侵入して発症する」をご参照ください)
「口に入っても安全なものは皮膚に塗っても安心!」
「自然由来、食物由来だから肌に優しい!」
こういった謳い文句の化粧品、見たことありませんか?
これらは真実ではありません。
海外のオーガニック洗剤や化粧品だったら安心?
日本と違って、海外では、オーガニック洗剤として販売するには、政府機関や認証機関による厳しい基準を満たさなければなりません。
フランスの「ECOCERT」「COSMEBIO」、イタリアの「ICEA」、ドイツの「BDHI」、オーストリアの「ACO」などの認証マークが有名です。
だから、海外のオーガニック洗剤や化粧品だったら安心、ということでもありません。
海外と日本では水が違います。
ヨーロッパのスキンケアや化粧品は、硬水によってもたらされる肌や髪のトラブルに対応した界面活性剤が使われています。
多くはアミノ酸系ですが、脱脂力が強く頭皮や髪には好ましいとはいえないオレフィン(C14-16)スルホン酸ナトリウムが「天然・植物由来のシャンプー」として多用されています。
少し話がそれますが、「ブリタ」という日本でもよく売れているドイツ製のポット型浄水器があります。
イオン交換樹脂と活性炭がろ材で、浄水器というより軟水器というべきでしょうが、問題はイオン交換樹脂による硬度成分の消失です。
水溶液中に含まれるイオンを別のイオンと交換する働きをもつ合成樹脂をイオン交換樹脂といいますが、ブリタは水道水中の硬度成分であるカルシウムイオンとマグネシウムイオンをナトリウムイオンとイオン交換します。
ドイツなどヨーロッパの水道水の硬度は200~400(硬水)もありますから、イオン交換で硬度100ぐらい(軟水)にするなら問題はありません。
しかし、日本の水道水の硬度は40前後ですから、イオン交換樹脂を通せば、カルシウムイオンとマグネシウムイオンは確実にゼロになり、ナトリウムイオンが増えます。そのような水が身体によい水でしょうか。お金を出して買う価値のあるものでしょうか。
ドイツなど硬水の国々では優れた商品でも、日本ではむしろ問題のある商品です。
本筋から外れましたが、分かりやすい例としてご紹介しました。
硬度成分の影響が少なく水に恵まれた軟水の国日本では必要のない成分が使用されていて、しかも価格の高い海外のスキンケアや化粧品を敢えて使う必要があるのか、よく考える必要があります。
両性イオン界面活性剤の問題点
両性イオン界面活性剤は、水に溶けたとき、アルカリ性領域では陰イオン界面活性剤の性質を、酸性領域では陽イオン界面活性剤の性質を示す界面活性剤で洗浄性や起泡性を高める補助剤として広く使用されています。
両性イオン界面活性剤は、皮膚刺激性や毒性は他の界面活性剤より低めとされ、弱酸性洗浄剤のシャンプーや洗顔料の泡の安定剤として、また帯電防止剤としてヘアリンス、トリートメント、ヘアスプレーなどに利用されていますが、下記のような問題点が指摘されています。
-
コカミドプロピルベタイン(医薬部外品表示名称はヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン液)は、アメリカ接触皮膚炎協会により2004年のアレルギーの原因となる物質に認定されており、また理・美容師の皮膚炎症例におけるパッチテストの結果コカミドプロピルベタインの陽性率が42%でした。
コカミドプロピルベタインのヒト試験による皮膚刺激性については、一時刺激は軽度以下とされ、累積刺激においては重度のダメージが示されています。
したがって、シャンプーのようにすぐ洗い流すような通常の使用においては特に問題はないようですが、理容師や美容師のように日常的にコカミドプロピルベタインを含む製品を頻繁に使用する場合は、接触性皮膚炎を発症する可能性が高いことが示されています。
-
「クローバーを用いた界面活性剤の毒性試験」によると、両性イオン界面活性剤が「一般的に強い殺菌力を落ち、多種の生物に毒性を示すことが知られている陽イオン界面活性剤に匹敵する毒性を示した」と報告されています。
両性イオン界面活性剤は、液性がアルカリ性のときは陰イオン(アニオン)界面活性剤、酸性のときは陽イオン(カチオン)界面活性剤の特徴が強く出るので、弱酸性洗浄剤の場合はカチオンの効果を発揮しますから、程度の差こそあれ毒性を示すことは当然です。
両性界面活性剤は、皮膚に対してマイルドとして、ノンシリコーンやカチオンフリーを謳うシャンプー、コンディショナーや赤ちゃんや敏感肌の方にも使える洗浄成分として多用されていますので、注意する必要があります。
化学物質の安全性
石けんは「世界最古の化学製品のひとつ」とされます。
化学物質の安全性について確かめるには何年もかかりますが、人間に対しての安全性については何世代にも渡る検証が必要です。
石けんは、12世紀にはすでに地中海地方で工業的な大量生産が行われていましたから、人間が現在の形の石けんを使い始めて少なく見積もっても900年以上経っています。
それほど長い間石けんを使い続けても、人体や環境に重大な悪影響は出ていません。
つまり石けんの安全性については確認済みなのです。
「ばい菌から家族を守ります」と謳って、「ビオレu」や「ミューズ固形石鹸」などの手洗い石けん,スキンクリーム,歯磨きなど,毎日使用されている広範囲のパーソナルケア製品に,防腐剤や抗菌剤として広く使用されていたトリクロサンやトリクロカルバンは効果がないどころか人体や環境に害がある可能性が高いことが明らかになりました。
約40年間。「安全」として使われていたのです。
2015年6月、EUの専門機関、欧州化学機関(ECHA)が、人間や環境中の生物への影響 を考慮して、殺菌効果を目的とする衛生用品(石けんやシャンプーなど)へのトリクロサンの使用を禁止する決定を下しました。
2016年9月、米食品医薬局(FDA)は、抗菌作用があるトリクロサンなどの19成分を含む商品が、人体や環境に害がある可能性が高いとして、全面的に販売を禁止すると発表。
これを受けて、日本の厚生労働省でも、薬用石けんに含まれる19種類の殺菌成分を1年以内(2018年9月まで)に切り替えるように各製造会社に要請しました。
※ 詳しくはこちら
海外では「禁止」なのに、日本では「要請」とは、厚生労働省の姿勢に疑問を持たざるを得ません。
消費者は商品の謳い文句を鵜呑みにしないことです。
負の連鎖 髪の厚化粧・トリートメント
ドラッグストアには数え切れないほどの多くの種類のトリートメントが並んでいますが、それだけ髪の傷みで悩んでいる人が多いことを物語っているのではないでしょうか。
トリートメント(treatment)の意味は、手当て。治療。特に、傷んだ髪の手入れです。
髪は爪と同じで死んだ細胞ですから、肌のような自己治癒力はなく、傷んだ髪が治ることはありません。
トリートメントは、髪の表面をコーティングして治ったように見せるだけです。
そしてメーカーは、トリートメントの効果を持続させるために、表面のコーティングが剥がれやすくなる洗浄力の強いシャンプーではなく、洗浄力の「穏やかな」弱酸性系のシャンプーの利用を勧めます。
しかし、トリートメントがシャンプーできちんと取れないと、髪に徐々に積み重なって髪の表面に蓄積して酸化し、ビルドアップによってゴワゴワ、ベタベタの髪になってしまいます。
トリートメントは、メイクでいうファンデーションのようなものですから、繰り返していれば、ファンデーションを幾層にも上塗りをしていることと同じで、少しずつ髪の毛を痛めてしまう原因になります。
髪の健康のためには、髪が傷んだからといってトリートメントを繰り返す負の連鎖を断ち切る必要があります。
そして、健康な髪や頭皮を取り戻すために最も大切なことは、生えてきた健康な髪の毛をなるべく痛ませないことです。
健康な肌や髪のためには、最小限のケアと良い生活習慣によって、肌が持っている「自らが潤う力」を引き出すことが最も大切です。
バリア機能が整っている肌は、水分・油分が肌の中でしっかりと保たれており、頭皮や髪の自浄作用がきちんと働いて、紫外線や大気の汚染物質、花粉などの刺激を受けにくく、肌や髪のトラブルを回避することができるのです。
スカルプシャンプー
最近よく宣伝されている「スカルプシャンプー」という商品があります。
スカルプ「Scalp」とは、英語で「頭皮」を指す意味ですが、スカルプシャンプーの謳い文句は以下の通りです。
シャンプーの基本となる「洗浄=髪や頭皮を洗う」という役割に加えて、「頭皮を健やかに保つ」機能を持っているのが特徴です。
普通のアミノ酸シャンプーでは、頭皮に溜まった老廃物や皮脂の汚れをきちんと落とせず、頭皮の「健やかさ」を保てない、と言っているようなものですが、合成シャンプーの本質がはっきりと示されています。
もともと、頭皮には皮脂を分解してくれる常在菌がおり、それがバリア機能を発揮することで、頭皮は安定し、清潔に保護されます。
健康な頭髪を育む土壌となるのが頭皮ですから、しっかりと汚れを落として頭皮を清潔に保つことこそ、肌が本来持っている美しくなろうとする自浄作用に繋がるのです。
頭皮が清潔で健康なら、「頭皮を健やかに保つ機能」を加える必要はありません。
頭皮をしっかりと洗うだけで、あとは皮膚常在菌の「頭皮を健やかに保つ機能」に任せる石けんこそが、真のスカルプシャンプーです。